
現場の声を、組織の強さに変える、ラーニングサイト構築の軌跡
彼女のキャリアの転換点は、常に「現場」にありました。現在は、教育プラットフォーム「GFアカデミー」の専任担当として、その構築に心血を注いでいます。彼女に与えられたミッションは「現場の教育を仕組み化すること」。その根底にあるのは、新卒時代の店舗経験、そして総務人事時代に自ら多様な業態の現場へもぐりこみ、信頼を勝ち取った泥臭い歩みでした。
原点は「店舗」にあり。100項目のマニュアルに込めた「現場の解像度」
SさんのG-FACTORYでの歩みは、新卒研修から始まりました。研修先は、鰻のファストフード店『名代 宇奈とと』の店舗現場。研修の課題は、新人の定着を目的とした研修マニュアルの作成でした。
「マニュアル作成を任された際、現場の状況を改めて客観的に見つめ直しました。そこで分かったのは、教える側が『当たり前』と思っていることが、新人や特定技能ビザで働いてくれているたくさんのグローバル人材にとっては、実は当たり前ではないということ。活気の出し方一つとっても、店舗や担当者によって教え方が違っていたんです。だから私は、自分自身が現場で感じた『何から覚えればいいのかわからない』という不安を解消するために、身だしなみから掛け声のタイミングまで、現場で必要な項目を徹底的に細分化した業務チェックシートを作りました」
彼女が作ったのは、単なる事務的なリストではありません。それは「誰もが同じ基準で、一歩も迷わずに成長できるための地図」でした。身だしなみから掛け声のタイミングまで、現場の感覚を徹底的に言語化した業務チェックシート。このアウトプットを見た上司は、驚きと共にSさんを大絶賛。研修課題のクオリティの高さと「感覚を型にする才能」を高く評価した上司は、営業職としての採用だったSさんを「人事部」へ配属しました。
「あなたのその力は、組織全体のインフラを作るために使ってほしい」 上司からのこの期待が、彼女を新たなステージへと押し上げました。
専門業態へもぐりこむ。現場の懐で築いた信頼の布石
その後、人事部へと配属されたSさんは、宇奈とと以外のレストラン業態のマニュアル、そして、評価項目シートの作成を行いました。デスクに座っているだけでは決して見えない「現場の本質」を正しく理解すること。彼女は全業態を網羅するハンドブックや評価シートを作成するため、和食、天ぷら、焼き鳥といった多様な専門業態の店舗現場に潜入しました。
「それぞれの現場に入り、店主や社員の方々と同じ目線で働く時間を大切にしました。専門性の高い業態には、独自の作法や譲れないこだわりがあります。外からではなく、まずは現場にもぐりこんで、実際に手を動かし、彼らの仕事の機微を肌で感じる。地道に関係を深めていきながらマニュアルの作成を行いました」
そして、店主たちの声を聞く中で、Sさんは一つの痛切な事実に直面しました。それは、グローバル人材を受け入れる側の店長たちが抱える、目に見えないストレスです。
「グローバル採用が進んでも、日本語が苦手な子に教えることは、想像以上に根気がいります。普段の日本語同士なら一言で済むことが伝わらない。文化や『当たり前』の違いからくるちょっとした言い回しのミスが、時にはトラブルに繋がってしまう……。現場の店長たちが抱えるその『もどかしさ』は、私自身も現場で体験し、痛いほど共感できるものでした」
この時に積み上げた「現場のリアルな呼吸」と「店長たちの葛藤への共感」が、後のプロジェクトを支える強力なインフラとなっていきます。
プロジェクトの停滞と、突きつけられた「リーダー」というミッション
マニュアル・評価シートの作成を一通り終えた頃、社内で一つの巨大な構想が立ち上がりました。飲食業界で働く特定技能の外国人材を支援するための教育プラットフォーム「GF Academy 」です。当初は各部署から集まるチームでスタートしましたが、日常業務の忙しさに阻まれ、プロジェクトは思うように進みませんでした。「このプロジェクトを形にできるのは、彼女しかいない」 実務のリーダーとして白羽の矢が立ったのはSさんでした。
「主軸として白羽の矢が立った時、不安もありましたが『今の自分なら、あの日々現場でもぐりこんで出会った方々の知恵を借りて、きっと形にできる』という確信もありました。このラーニングサイトの制作のように『現場の知恵を集約し、仕組みとして形にしていく』実務は、自分にしかできない役割だと思えたんです」
インターン生を率い、論理で「型」をつくる
そこからはローンチに向け、Sさんはリーダーとしての執念でコンテンツ制作に没頭します。制作メンバーとして加わったのは、多くのインターン生たち。Sさんにとって、これが人生初のマネジメントへの挑戦でした。しかし、すぐに大きな壁にぶつかります。
「インターン生たちが書いてくれる原稿は熱意に溢れていましたが、個々の主観や癖が強く、トーンがバラバラでした。自分が書くのとは違い、人に意図を伝え、動いてもらうことの難しさを痛感しました」
良かれと思って書かれた文章が、教育システムとしての一貫性を損ねてしまう。熱意を削がずに、どうクオリティを統一するか。リーダーとしてのSさんが導き出した答えは、自身がこれまで取り組んできたあの「型の重要性」に立ち返ることでした。
感覚ではなく論理で。リーダーとして築いた「完璧なガイドライン」
Sさんは、マニュアル制作で学んだノウハウを注ぎ込み、誰が書いても同じクオリティになる完璧なガイドラインを構築しました。
「せっかくみんなが一生懸命書いてくれたのに、それを私が直していくのは、正直心苦しかったです。でも、教えられる側が迷わないためには、絶対に一貫性が必要で。みんなの『伝えたい!』という気持ちを大切にしながら、それを誰にでも伝わる『正しい形』に整えることを意識していました」
オンラインで進捗を徹底管理し、一つひとつの原稿に論理的なフィードバックを返す。感覚に頼らない教育システムを整えていくプロセスを通じて、Sさんはチームを率いる「リーダー」へと一皮むけていきました。
事業部を超えた連携。現場の「生の声」がコンテンツに命を吹き込む
システムとしての形が整えば整うほど、Sさんの胸にはある確信がありました。「この仕組みを本物にするのは、画面の向こう側にいる現場の職人たちの声だ」ということです。彼女はかつて総務人事部時代に、焼き鳥、天ぷら、和食といった多様な専門業態の現場で関係性を築いた、あの店主や社員たちを頼りました。

「以前から現場にどっぷりと入り込み、直接コミュニケーションを取ってきた皆さんだからこそ、建前ではない、現場の切実な課題に基づいた意見をもらうことができました。
実際に現場の店主たちから言われたのは、『日本人の新人でも使いこなすのが難しいような敬語を、最初から教えるのは現実的ではない、それよりも、お客様からアレルギーや味の好みについてイレギュラーな質問をされたとき、どう返せばいいのか』などといった、現場で今まさに外国人の子たちが困り、言葉に詰まっている具体的なシーンへの対応を教えるべきだ、という助言でした。
かつては何でも『一人でやった方が早い』と考え、どこか周囲に壁を作っていた私ですが、この時、現場のスペシャリストたちと一つの仕組みを作り上げることの喜びを感じました。私が一人で机に向かって絞り出した言葉より、現場でもぐりこんで拾い上げた一言の方が、何倍も強く、深く、働く人の心に届く。皆さんの声が、GF Academyを単なる学習ツールから、現場で戦うための『武器』へと磨き上げてくれたんです」
ただのサイトから「伴走者」として世界へ

彼女が見据える未来は、単なるラーニングサイトの作成ではありません。
かつて私が現場にもぐりこんでいた時に仕事を教えてくれた方々のように、誇りを持って働く人を一人でも増やしたい。そんな未来を形にしたいです」
Sさんが見据える未来は、単なる就労者の学習支援だけではありません。現場で日々向き合う店長たちの「教える負担」を肩代わりし、彼らの助けになること。それこそが、『GF Academy』の真の使命だと確信しました。
「私の目標は、入国前からこのサイトで学んできた子が、日本に来てからも迷わず成長し、数年後には特定技能2号を取得して店長を支える右腕になる……そんな姿を見ることです。
それは就労者の夢を叶えるだけでなく、現場の店長たちが『言葉の壁』に疲弊することなく、共に働く喜びを感じられる環境を作ることでもあります。店長たちのストレスも、就労者の不安も、全部まるごと解決できるようなサービスにしていきたいんです」
「今の自分が想像もつかないような未来を、この手で正解にしていきたい」。かつて彼女に仕事を教えてくれた現場の方々への恩返しとして。新卒3年目、Sさんの挑戦は、教える側と教わる側、その両方の未来を照らす確かな「希望の型」になろうとしています。